第6章 完璧執事の、弱点
「こちらでございます」
「ありがとう」
促されるままに電話をとり、彼がいなくなるのを待って赤く点滅するボタンを押した。
けど。
「………ぇ」
聞こえてきたのは『ツー ツー ツー』と無機質な機械音。
すぐに受話器を置いて先ほどの彼を追うが、当前姿など見えるはずもなく。
「………くそっ」
やられた。
こんな手に引っ掛かるなんて。
だいたい、良く考えればわかったはずだ。
旦那様なら。
いくら急ぎの用でも余所のパーティーの最中、呼び出すなんてしない。
良く知りもしない使用人に、俺への伝言を残すなんてしない。
ましてやどこの誰かもわからないものに、『至急』などと言葉を使わない。
ほんとに至急なら、誰か人を寄越すはずなんだ。
考えれば、わかったはずなのに。
いましがた歩いてきた道を、全速力で駆け出した。
「━━━━薔っ」
ほんの数分。
彼女から目を離したのはたぶん、時間にしてほんの数分。
だけどその数分が、いつだって命取りになるものだ。
来た道を戻り広間へと続く廊下まで来たところで、険しい顔の薔に出くわした。
嫌な予感を払拭したくて彼に駆け寄るが、予感は色濃く、増していく。
「あなたが出た後すぐに西園寺が知らない男と出たから、すぐに追いかけたのですが」
「ぇ」
「すみません、見失いました」
「見失った?」
「そこの階段の踊り場で、姿を消したんです」
「━━━━ぇ」
「すみません」
「薔様━━━と、あれ?和泉様?」
たぶん険しい表情でお嬢様を追いかけた彼を心配して来たのだろう。
薔を見かけると彼女は安堵のため息を漏らし、ついでに俺を見つけた彼女は驚愕の表情をした。
「華」
「さっき皇ちゃん、和泉様に呼ばれて……」
「違うんだ、華。和泉様じゃない」
「ぇ」
「━━━━━っっ」
何、やってんだ俺は。
何があっても目を離しちゃ行けなかったのに。
「━━━━先輩」