第4章 お嬢様の憂鬱
「待ってハイセ、あたし、具合なんて悪くないよっ?」
「存じております」
「ハイセっ」
俺の歩幅に合わせる彼女は、いくらか早足だ。
それすらもかわいく見えて仕方がない。
短い足を必死で動かす子供のようで、それでも俺に必死に着いてきてくれる小柄な彼女を子供だなどと思えるはずもなく。
ごちゃごちゃになる思考に自然と笑みが溢れた。
「今日はこちらで参りましょう」
「……これ、ハイセの?」
「どうぞ、お乗りください」
助手席のドアを開ければ。
「………ええ、もちろん」
彼女の満足そうな笑顔。
うん。
やっぱり笑顔の方が彼女にはよく似合う。
「………ねぇ、パパに叱られないの?」
「まさか」
「だって勝手にふたりで出て来ちゃったし。病院に行くなんて嘘ついちゃったし」
「旦那様はそんなに小さな器は持ってませんから、安心して下さい」
「あっそ」
「お嬢様」
「……そうでございますか」
「ええ、よく出来ました」
右手でハンドルを持ち、左手でポンポン、と頭を撫でる。
てっきり『子供扱いしないで』なんて怒られると思っていた予想に反して。
やけにおとなしい彼女をチラリと横目で見れば。
「………っ」
真っ赤に頬を染めて、うつむく彼女が視界を占領した。
「………その顔は、反則ですお嬢様」
「……はい、せ?」
左手で彼女の頬へと手を伸ばし、撫でた。
吸い付くような艶々の肌。
ずっと触れていたくなるような、極上の柔らかさ。
ドキドキ、する。
今すぐホテルにでも連れ込んで、めちゃくちゃに抱き潰したい。
ずっとずっと、触れていたい。
「………-ふぁいしぇ?」
そんな邪な邪念を打ち消すように、そのままぷにーっと頬をつねれば。
ヤバい。
伸びるし。
「ハイセっ?仮にもあたし、お嬢様なんだけど?ほっぺたつねった挙げ句大笑いってどーゆーこと?」
ハンドルに顔を突っ伏して大笑いする俺の腕をポカポカ殴る彼女にさえ、欲情する。
触れたい。
抱き締めたい。
キスしたい。
……抱きたい。
こんなにも愛しく思える存在に、出会ったことなんてない。
きっとこれからだって。