第4章 お嬢様の憂鬱
「………なんで、運転手のおじさんがいるの?」
ご機嫌なご様子で朝食を平らげ、いつもならダラダラと長時間かかる朝の支度も数分で仕上げ。
るんるん気分で彼女が向かったのは言わずもがな、俺の車。
額に手をつき盛大にため息を吐き出してから、笑顔をその顔にたずさえて、彼女の前へと足を向けると、彼女の右手をとり車へと向かう。
しぶしぶ手を引かれる彼女に苦笑しながらも車の後部座席のドアを開ければ。
先ほどの彼女の言葉となる。
「当たり前でしょう」
「なんで?ハイセとふたりじゃないの?」
「ふたり、とは申し上げていませんが」
「………っ」
小さく震えて、唇を噛むのは昔からだ。
忙しい両親を見送った後、小さな小さな女の子はいつも、車がいなくなった門の前にこうしてしばらく立ちすくむのだ。
小さな体で寂しさを堪えている姿が、すごく愛おしいとさえ感じていた。
この小さな体は、こうしていくつの感情を圧し殺して来たのだろうと。
「………これが彼のお仕事なんですよ、お嬢様」
「…………そうね」
表情が、変わった。
「…………」
我ながら甘いな、とは思う。
だけど最近寂しい想いをさせているのは事実で。
目の前で今にも泣きそうな顔をしながらもおとなしく車に乗り込もうとしている彼女を、ほっとくなんて選択肢が存在したのか疑問にも思えるのだ。
「ハイセ?」
気付けば、知らずに彼女の腕を掴んでいた。
「申し訳ありません。お嬢様は体調が優れないとのことで、このまま病院に連れていきます。」
「え?」
そのまま後部座席にあるスピーカーから、運転手の方へと勝手に指示を出して。
後部座席のドアを閉める。
「和泉様っ!?」
慌てて飛び出して来た彼に一礼、して。
ポカンとしている彼女の手を引き歩き出したんだ。