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溺愛執事の恋愛事情

第3章 お嬢様、バイトする


背中にしがみつきながら、震える小さなその体。
目の前の男に触れていた手を離し、その手を軽く拭いてから。
愛する彼女をぎゅっと抱き締めた。



「ハイセ……っ」
「お怪我は、ありませんか?」
「うん……」


「そうですか」



確かに見たとこ、大きな怪我はなさそうだ。



着ていた上着を彼女へと羽織らせ。
にこりと微笑みドアへと足を伸ばした。
薄暗い階段を降りきれば、明るい陽射しが目に染みる。
そっと手をかざした、その時に。



「?」


未だ薄暗い闇の中にいる彼女を振り返れば。
その右手は、俺のシャツを数ミリ掴むように、伸びている。



「お嬢様?」
「……………った」
「?」


暗がりで、ましてやうつむきながら小さく呟く彼女の顔は、見えない。
だけど。
小さな肩が確かに震えてるのは、目に入った。


「………怖かっ……よ、ハイセ」
「えぇ」


そっと、横へと並び肩を抱き寄せれば。
頭だけ、肩へと刷り寄せてくる。


「………っく、ぅ」
「えぇ」


そっと。
小さく震える頭を包み込むように抱き寄せた。





「大丈夫、ですから」



自分の持てる最大限の優しい声で、囁く。
自分でもよくこんな甘ったるい声隠してたな、なんて自嘲したくもなるけど。
それで彼女が落ち着くなら、いくらでも囁いてやる。
いくらでも、甘ったるい声とやらを出してやるから。
小さなその体で、声を殺して泣かないで。
いくらでも。
肩でも胸でも貸すから。



全部全部、この場に吐き出してしまえばいい。



「誰も見てませんから」


正面から今度は彼女を隠すように抱き締めた。


「思いきり、泣いていいのですよ、お嬢様」
「ハイセ……っ」
「執事と恋人、どちらが必要ですか?」


「………『ハイセ』」


鼻まで真っ赤に染めながら、上目遣いに見上げる彼女に、背筋から駆け上がる感覚を無視できない。


「ハイセが、いい。」


全く。
こんなときまで素直じゃないんだよなぁ。
ウチのお嬢様は。
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