第2章 Lady GO or Stay?
「…………ハイセ」
「なんでしょう」
「これ、何?」
「何、とは?」
いやいや、おかしいでしょ絶対。
確か数分前、いや、1分前にはあの机にかじりついて数字やら記号やら数式やらとにらめっこしてたはず。
うん。
間違いない。
やっと全問出来て、勉強から解放される、そう思って表情がにやけたのは、記憶にも新しい。
だけど何故か今。
あたしがいるのはずっとずっと愛用しているふかふかのベッドで。
何故か後ろから抱き締めるように手を回すのは、誰でもないハイセだ。
しかも何故か。
さっきから首の後ろやらうなじやらにハイセの柔らかい唇が触れる。
うん。
絶対何か、おかしい。
「……ハイセ……っ」
「なんでしょう」
じゃ、ない。
さっきからなんなのか、聞きたいのはこっちなのに。
ハイセの唇が、掌が肌を撫でる度にふつふつと涌き出る感覚。
ハイセの掌は服の上からあたしに触れてるだけだし、唇だってさっきからうなじやら首筋やらを往復してるだけだ。
別に、こんなのじゃれてるうちにも入らない。
はず、なのに。
なんでだろう。
お腹の奥がキュン、て、切なくなる。
「………勉強、は」
「んー、すみません、僕がもう、我慢の限界みたいです」
「は?」
がっしりと後ろから回されていた右手は、今度は顎に回されて。
そのまま顔ごとくるりと振り向かされれば。
目を閉じる暇もなく、また熱い唇が重なった。
唇が触れたまま、真横に倒された視界にうつったのは反転した世界。
ハイセの後ろに、天井のライトが見える。
「え」
下はベッドなわけだし、倒れたところで痛みなどあるはずもないのだけど。
こんな時でもやっぱりハイセはハイセだ。
倒れた瞬間に後頭部に感じたのは、おっきなハイセの掌。
いつも、どんなときでもハイセはあたしに忠実なのだ。