第2章 Lady GO or Stay?
にっこりとあどけない笑顔を惜しみ無く晒す彼女に、もちろん視線なんかはずせるはずも、なくて。
普段がいつも、冷めた表情が多いだけにこの笑顔はやけに心のど真ん中を打ち砕くのだ。
「……っ!?」
目の前にあるぷっくりとよく熟れたピンクの唇に、引き寄せられるように重ねた唇。
ビクン、と、驚き逃げようとする彼女の後頭部へと腕をまわし、その動きを封じる。
わざと水音をたてながら逃げ回る小さな舌を捕まえて吸い付けば、すぐに脱力する小さな体。
とろん、と潤い始めた瞳を確認して、唇を離した。
「さぁ、続きをどうぞ」
「………っ!!」
トントン、と、問題集を指先で叩けば。
さらに真っ赤に染めたその顔を机へと彼女は向けた。
危なかった。
実はほんとのほんとに、危なかったのだ。
一瞬だけ視界に写った問題集。
あれがなければ今頃そこのベッドへと彼女を押し倒していたはずだ。
目眩がするほどの、色香に理性が持っていかれる。
これが俗にゆー『フェロモン』、と呼ばれるものならば、このむせかえるほどの甘い匂いに理性が勝てないのはたぶん仕方ないことなんだろう、とも、思う。
トントン
と、遠慮がちに叩かれたドア。
視線を彼女と時計、交互に向けるけど、勉強に集中しているのかまるで気づく様子がない。
時間的にいって、夕食だろう。
そっとドアから体を出して、案の定食事を知らせに来たメイドに、指示を出す。
部屋で食べるから、廊下まで持ってきて欲しい、と。
「わかりました。お勉強が終わり次第お召し上がりくださいませ。」
ありがとう、と一言伝え、部屋へ戻ろうとすると。
「和泉様」
「ん?」
「浴槽にもお湯をはっておきましたので」
呼び止めた彼女は、意味深に微笑みながら「失礼します」、と、頭を下げて暗がりへと消えて行った。
「…………」
なんかいろいろと、あれだなぁ。
バレてるよ、なぁ。
はぁ、と短いため息ひとつ。
再度ドアノブへと手を掛けた。