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溺愛執事の恋愛事情

第2章 Lady GO or Stay?


「いいですか?数学はいわば、暗記です。全て数式に当てはめてしまえば難しい暗号も簡単に解けるのですよ」

この数式を覚えておけば大丈夫です、と。
すらすらとノートに書かれていくきれいな文字たち。
ついでに。
す、と伸びたきれいな長い指先に、血管の見え隠れするゴツゴツとした、やっぱり綺麗な手の甲。


腕だって。


執事服の上から確かめるようにその腕に触れれば。


うん。
やっぱり、意外と筋肉あるのよね。
あたしの腕とは大違いだわ。


「……お嬢様」

「あ」


しまった。
ボキっ、と、恐ろしく鈍い音を立てる鉛筆に、とりあえず心の中で謝罪して。
だけどそれよりも。
鉛筆よりも危険なのは自分の身、なのに気づいたのはたぶん1秒も経過してない頃。


「やる気、ありますか」
「………ハイ」


あと1ヶ月もしないうちに夏休みがくるはずなのに。
この寒々とした冷気はなんだろう。
一気に背筋が凍ったわ。


「聞いてました?」
「ハイ。この数式を使えばいいのよね」
「そうです。ではとりあえず、こちら10分で解いて下さい」
「ええっ?」

だってこれ、20問あるわよ?

「………ハイ」

怖い。
睨みがこんなに怖いなんて。
おかしいわ。
いつの間に下克上なんておきたのかしら。



無惨に折られた気の毒な鉛筆を埋葬して、新しい鉛筆へと手をかける。
ついでに。
キィと、回転椅子を軋ませながら椅子に寄りかかるハイセへと向けた視線。
問題集や参考書に目を通していく彼は、いつもと違う表情で。
なんだろ、なぜだかすごくため息が色っぽい。
怠そうに目を伏せる仕草も。
参考書を机に置いて、切れ長の漆黒の黒曜石をこちらに向ける、熱い眼差しも。 
なぜだかすごく、不覚にもカッコいい。
絡んだ視線に、ドキンと心臓が跳ねた。




あれ?

こちらに向けた眼差し?
絡んだ視線?


「…………皇、お嬢様、?」

「……ハイ」

  
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