第12章 溺愛執事の恋愛事情
3年。
3年で経営を軌道にのせる。
そう決めた。
そのために必死で、それこそ寿命を縮めて体と頭を動かした。
日本から来た若造についてきてくれるのか大きな不安はあったが、日本と違って実力社会。
結果を出せば。
おのずとみんな、力を貸してくれた。
そのためあってか。
3年かからずに経営は軌道にのりはじめ、少しだけ余裕が生まれた。
これで。
やっと行ける。
やっと、会いにいける。
迎えに、行ける。
皇。
皇と別れて3回目の、春。
屋敷の回りには桜の花が散っていて。
ああそうか、花見シーズンはもう終わったのかなんて。
懐かしい気持ちに自然と笑みが溢れた。
2年ぶりの風景は。
記憶の中とちっとも変わってない。
記憶にも新しい懐かしい屋敷が、見える。
あの頑丈すぎる扉は今もまだ、分厚く重いのだろうか。
皇との距離を隔てたあの玄関の扉を、複雑な気持ちで見つめて、いれば。
ガチャリと、軽々しく扉が開いて。
「パパ、ママ。行ってきます」
「…………っ」
笑顔で、皇が、出てきた。
手には重そうな、手荷物。
まるで海外にでも旅行に行くような。
長かった髪は肩くらいにキレイに整えられていて。
幼さなど微塵も残さない、大人の女性。
「………ぇ」
笑顔で玄関の扉を閉めて、振り向いた彼女の視線。
それはただ真っ直ぐに、前を見つめていて。
瞬きすらしないその視線に。
自然と笑顔が漏れた。
その瞳にはおっきな涙が溢れていて。
幼い子供のころのように涙を耐える彼女の仕草に。
「━━━━皇」
抱きしめたい衝動をこらえ、名前を呼んだ。
「はい、せ」
小さく、そう口が動く。
ガタン、と。
キャリーケースが手から離れた瞬間床に倒れ落ちた。
「ハイセ!!」
聞きたかった、彼女の声。
触れたかった、ぬくもり。
夢にまで見た、彼女の存在。
それらが全て。
腕の中にある。