第10章 お嬢様の一大決心
ほとぼりが覚めるまでって、いつ?
1週間?
1ヶ月?
1年?
そんなにハイセと離れるなんて絶対に嫌!!
「嫌だ。ねぇハイセ、ハイセもバカげてると思うでしょう?こんな茶番、付き合う義理ないわよね?ね?」
「………」
どうして?
どうしてハイセ、目をあわせてくれないの?
『もちろんです、お嬢様』
って。
笑ってよ。
ねぇ!!
「………旦那様、お嬢様とふたりにしていただけませんか」
「わかった」
「申し訳ありません」
なんで?
ハイセ。
ずっと一緒にいるって。
そばにいるって。
「あいつがまた来たら?あいつが来たら……」
「あの男なら警察です。現れることはありません」
「すぐに出てくるわ!!そしたらまたあたし……っ。誰があたしを守るの!?あたしまた、襲われ………っ」
やだ。
思い出すな。
今、震えてる場合なんかじゃないのに。
「ちゃんと、おそばにいます」
「え」
ふわ、って。
頭ごと抱え込むようにハイセのぬくもりが、体を覆う。
「ロンドンへは、行きません」
「……え」
嘘。
「ほんと?」
「ええ」
「ハイセ………っ」
でも。
だけど。
「あたしたち、一緒にいられないって」
「ええだから。僕は実家へ戻ります」
「え」
「和泉家と西園寺家の繋がりは、奥様のご実家、それだけです。あとはこちらで、全て引き受けます。お嬢様にも旦那様にも、一切迷惑はかけません」
和泉、家が?
「なので少しだけ、辛抱していただけますか。必ずお迎えに参りますので」
「………ほんとに?ほんとにそれで、うまくいくの?」
「ええ」
ほんと?
そんなに単純に、おさまるの?
だけど。
ハイセの、笑顔。
たぶんハイセなら。
なんでも完璧にこなすハイセなら、きっと。
きっと絶対、うまくいく。
「ですから、冷めないうちに召し上がって、おやすみください」
「わかった。……眠るまで、いてくれる?」
「もちろんです」
「………うん」
ハイセの笑顔に安心して。
あたしはほんとに、子供だったんだと思う。
世間てものを、全然わかってなかった。
なんでハイセはこの日ずっと、敬語だったんだろう、とか。
なんで執事に徹底してたのか、とか。
気付けたらもっと、違う未来があったのかな。