第10章 お嬢様の一大決心
「逮捕された時には酷い怪我で、保護された時にドラッグが見つかったんだそうだ」
「え」
「暴行も、ドラッグも、ハイセがやったと警察で話している」
「そんなの……」
だって。
だってあの男は……っ
「そんな嘘、警察だって動かないでしょ!?証拠だってないし、第一そんな事件簡単に……」
揉み消せる力は、あるはずでしょう?
「目撃した人が数人いてね。警察も動き始めた」
「………嘘」
「だけど問題は、そこじゃない」
「ぇ」
「目撃証言だけならすぐにこんな事件、消えてなくなってしまうだろう」
「?」
「彼の目的は、別にある」
「別?」
「━━━━お嬢様ですよ。西園寺グループの、スキャンダル」
え。
「ハイセは、和泉家の長男だ。調べればすぐに身元は知れる。和泉家は政界とのパイプ役だ。マスコミも警察も、あることないこと喚くだろう。和泉家は、お母さんの、実家の本家でもある。ハイセがウチの執事をしていることもいずれバレる。………お前にたどり着くのも、時間の問題だ」
「え」
「お前と、和泉琲世の関係は、諸刃の剣なんだよ皇」
あたしと、ハイセの?
「西園寺グループは、今や世界屈指の財閥です。そのひとり令嬢と、暴力沙汰をおこした和泉家の問題児の恋愛は、大スキャンダルになります。ましてや執事ともなれば」
「皇すまん。今はまだお前たちの関係を公表するには時期が悪すぎるんだ。だから。」
「だから?」
「ハイセには、ロンドンへ行ってもらう。皇、お前にも婚約者を宛がうこととする」
「……え」
「パパは、お母さんと皇が大事なんだよ。皇が世間の興味本位な目にさらされて、あることないことたたかれるのは、見たくない。リスクは今のうちに摘んでおきたいんだ。すまん、ハイセ。皇を、守るには、お前を守るにはこうするしか……」
「嫌よ!!あたしも行くわ、ロンドン」
「ふたりは離れないといけないんだよ、皇。ほとぼりが覚めたらまた、ふたりで会えばいい。ハイセもその頃には立場も変わっているだろうから。婚約者だって、形だけで…」
「嫌よ!!絶対嫌!!」