第10章 お嬢様の一大決心
嫌な胸騒ぎは、あった。
昨日ハイセの話を聞いた時から。
パパがこんなに深刻としている問題を、いくら完璧だからってハイセひとりに解決できるのかなって。
だけど考えないように、してた。
離れたくなくて。
ハイセがロンドンに行くなんて、耐えられなくて。
実家に戻るくらいで済むならいいと思った。
近くにいるなら。
会うことは出来なくても。
遠くから見ることは出来る。
そう、自分にいい聞かせて、胸騒ぎを誤魔化した。
「おはようございます、お嬢様」
朝起きたらハイセはいなくて。
それでも日常はいつもどーりにまわる。
強くなっていく胸騒ぎに、蓋をする以外の防御策を、知らない。
いつもどーりの朝。
いつもどーりの学校。
授業。
ただ違うのは、ハイセがいないだけ。
それだけ。
「━━━━━━」
違う。
それだけ、なはずないじゃない。
なんで昨日ハイセは、キスをしてくれなかった?
「そばにいます」
なんであんなに、よそよそしかった?
なんでハイセは。
あんなに冷静に執事を、演じてた?
「………っ」
バカだ。
あたし。
「皇ちゃん?具合悪い?」
ハイセはいつも、あたしを一番に考えてくれる。
自分を犠牲にしても、何より一番に。
そうだ。
自分を犠牲にしても、あたしを守ってくれる。
ハイセの考えてること、わかったかも。
「皇ちゃん?」
「ごめんあたし、頭痛くて、早退する」
「え、だって今、来たばっかり……」
ハイセならきっと。
ううん、絶対。
なんで胸騒ぎに、気付かないフリなんてしたんだろう。
なんで違和感の正体、考えないようにしちゃったんだろう。
ほんとバカだ。
自分の幼稚さが、今日ほど怨めしいことってない。
最悪だ。
「━━━━ハイセ!!」
やっぱり、いた。
ハイセ。
「皇?なんで………」
全速力で走った目的地。
警察署。
こんなに本気で走ったことない。
足が震える。
だけど言わなきゃ。
ちゃんと。
あたしもハイセを守るよ。
「自首する必要、ないわ、ハイセ」