第10章 お嬢様の一大決心
『ロンドンへ行ってもらう』
何、それ。
『ほとぼりが覚めるまで』?
何、いってんの?
「!!お嬢様っ!?」
「皇?お前、なんで……」
「起きたら、ハイセ、いなくて。話声、聞こえて……」
今、なんの話してるの?
ロンドン、て。
誰が。
「お嬢様、暖かいスープ用意させますので、お部屋戻りましょうか。すみません旦那様、この話は後程……」
「嫌!!離してハイセっ」
なんでいっつも誤魔化すの。
はぐらかすの。
なんであたしはいつも、茅の外なの?
「ロンドンて何っ!?ほとぼりが覚めるまでってなんのこと?ねぇっ!!」
「なんでもありませんお嬢様。お部屋、戻りましょう」
「━━━━離しなさい!ハイセ!!」
もう嫌だ。
肝心なことはいつもいつも、教えてくれない。
そんなのもう、嫌だ。
「……ハイセ、潮時だ。すまんね、この子の涙には弱いんだよ」
「旦那様!!今は……っ」
「いつの間にか、そんな目をするようになったんだね、皇。誤魔化すなんて出来ないことくらい、お前にもわかるだろう?ハイセ」
「………」
「部屋に入ろう、皇。ハイセ、皇に食事を用意してくれないか」
「━━━━はい」
部屋に入って。
すぐに。
ハイセは暖かいスープと、簡単な食事を持ってきてくれた。
小さなテーブルに座るパパに、コーヒーを淹れて。
自分はドアの前に。
当たり前のように立つハイセに、パパは「皇の近くに」と、ハイセを呼んだ。
ベッドの中、枕を背に座るあたしの横に腰掛けて。
ハイセはあたしの掌を握って、そのまま手の甲にキスをひとつ。
たぶんハイセなりの、安心感を与えたつもりなんだと思う。
「大丈夫。何も心配いらない」、って。
「━━━━━皇」
コーヒーを一口、口へ含んで。
パパが顔を、あげる。
「ハイセは今、暴行罪に問われている」
「ぇ」
「ドラッグ所持で逮捕されたあの男」
━━━━ドクン
胸が跳ねる。
知らずに、握られた掌に力を入れれば。
ハイセもまた、しっかりと握り返してくれた。