第10章 お嬢様の一大決心
「……」
腕の中で寝息を確認し、ベッドへと横にする。
さっきと違って穏やかな寝顔に安心し、そばを離れた。
たぶんすぐに起きてしまうから、急がないと。
悪夢で体力はかなり消耗してるはずだから。
暖かいスープと消化にいい食事を頼もうと、静かに部屋を出た。
「━━━━━旦那様」
だけど部屋の外には旦那様が、いて。
「皇は、寝たのか」
チラリとベッドへと視線をうつす旦那様から隠すようにドアをそっと閉めた。
いつから、いた?
どこから、聞いてた?
防音とは言え、ドアの外で会話を聞こうと思えば聞ける。
聞き取りにくくても、何があったのかくらいはきっと知れてしまう。
「ハイセ」
「…………」
「娘は、皇はあの男に何をされた?」
「………」
「ハイセ」
「申し訳ございません旦那様。お嬢様にお食事の準備を頼んで……」
「━━━ハイセ!!」
はじめて聞く、旦那様の感情の乱れ。
怒り。
哀しみ。
苦しみ。
いつも穏やかなこの人が見せる、はじめての、感情。
父親としての。
「…………」
だけど。
それでも、沈黙を肯定として受け止めてくれた旦那様は、それ以上問いただすことはしなかった。
「………申し訳、ございません」
いたのに。
俺がちゃんと、そばにいたのに。
たった一瞬目を離したばっかりに。
俺が。
俺が……っ
「ハイセ」
「………はい」
「状況は理解した。大丈夫、キミは必ず守るから。副社長は、解任する。」
「………」
「そのかわり……」
ガチャン、て。
全くノーガードだったドアが、開いて。
「以前話した通り、お前にはロンドンへ行ってもらう。ほとぼりが覚めるまで、あっちで身を隠せ、ハイセ」
旦那様の言葉は、はっきりと一番知られちゃいけない相手へと、伝わったようだった。