第10章 お嬢様の一大決心
『壊れてくれない?』
痛い。
怖い。
寒い。
押さえつけられた腕が、動かない。
引き裂かれた服が、濡れた身体に纏わりついて気持ち悪い。
気持ち悪い。
けど。
それ以上に。
あたしに触れる、ハイセじゃない知らない誰かの手の感触が。
押さえつける強い腕が。
………気持ち悪い。
やだ。
触らないで。
汚い手で、触らないで。
やだ。
嫌だ。
「………さまっ、お嬢様さま、大丈夫です。大丈夫だから」
呼び戻されるように聞こえた声。
安心する、声。
暗闇から明るみに、引き戻してくれた。
だけど。
「━━━━━ぃやだっ!!離して!!離せっ!!いやぁっっ」
知らない、腕。
痛い。
怖い。
嫌だ。
「やぁあああッッ!!ハイセっ!ハイセぇ………っ」
「━━━━皇!!」
「…………っ」
抱き締める腕に、力が入って。
よく知る香りが、鼻を掠めた。
この、匂い。
ハイセ?
「あ………」
ハイセ。
ハイセだ。
ぬくもりも。
抱き締める、腕も。
「ハイセ…」
「ああ、皇。大丈夫。全部夢だから。悪い夢だから、覚めたらまた、忘れるから。」
「ハイセ、ハイセあいつ、あいつがいた……っ、あたし見たの。あいつ、また来たんだよ!!」
「大丈夫。そんなやついない。ただの悪い夢だから皇。大丈夫」
「違う!!夢なんかじゃないっっ、ハイセ!!」
残ってる。
感触も。
恐怖も。
全部残ってる。
夢なんかじゃない!!
「夢だよ、皇。悪い夢だ」
「ハイセ!!」
違う!
違うのに。
「お願い……ハイセ。怖いの。震えが止まらない。寒くて、怖くて……」
「大丈夫。ずっといるから。震えが止まるまで、こうしてるから」
「ハイセ………」
頭を撫でる掌が、心地いい。
ハイセの体温が、気持ちいい。
安心する。
ハイセだ。
ハイセがいる……。
ハイセ。