第10章 お嬢様の一大決心
━━━━━は?
「警察に保護された時、彼は酷い怪我でね。『和泉琲世』にやられた、と何度も話している」
「…………」
「何があった?彼と」
何が。
何が?
「ハイセ?」
「…………っ」
言えない。
言いたくない。
こんな、大勢の前でなど。
実の、父親の前でなど。
せっかくなくした記憶なんだ。
これ以上彼女を苦しませたくない。
「━━━━━━言えません」
「和泉家まで巻き込むことになってもか」
「……」
「皇、絡み、なんだな?」
「違います。お嬢様は関係ありません」
「お前が私に歯向かう理由など、ひとつしかないことくらいわかってる」
「………関係ありません」
頼むから。
この話は巻き返さないで。
これ以上、傷つけるな。
頼むから………っ。
「かまわないから、出なさい」
スーツの内ポケットから、振動。
携帯の着信に気付いた旦那様に一礼して、携帯を取り出した。
…………姫月さま?
「はい」
『和泉さまっ、大変!皇ちゃんが!』
「━━━!!お嬢様がどうかされましたかっ?」
『わからないんです。急に蹲ってしまって。苦しそうで』
「すぐに参ります。場所教えていただけますか」
━━━━━━皇!!
「琲世!まだ西園寺様のお話の途中だぞ!!」
急いで踵を返す俺の腕を掴んで、引き止めるのは。
和泉財閥代表。
血の繋がりだけで言えば、戸籍上は父親と呼べる人物。
無言で強引にその手を振り払い、睨みあげれば。
青ざめて、その足を後退させる。
度胸もないくせに、父親面するのが許せねぇ。
1度だってその役目を果たしたことなどないくせに。
俺には。
あの子以外に大事なものなんてない。
皇がいれば。
立場だとか身分だとか。
そんなもの必要ない。
乱暴に社長室のドアを開閉し、外へと飛び出した。