第9章 ふたりの境界線
「………」
驚いたように向けられた視線は。
やがてどんどん、熱を持っていく。
「何よ」
いちいち理解が出来ないわ、この人。
「いえ、失礼しました」
「何よ」
「なんでもございません」
「………だから、何なのよ」
あの不自然なまでの間をなかったことに、冷静に靴や靴下を脱がせていくハイセへと鋭く視線を向ける。
「よろしいですか?」
「……何が」
ほんと、いちいち面倒ね。
ため息なんてつかれる覚えも、なくてよ、あたし。
「………違う言葉、とはなんです?」
「……?」
「何をどう勘違い、されたのです?お嬢様?」
「あ……」
しまった。
時すでに遅し。
ハイセの不自然なまでの態度の意味を今さら理解したところで、この空気は変えられない。
「あ、あんたがいつもいつも変態チックに言葉言うから……っ」
「………どんな風に?」
「………っ」
捻挫で火照った足に、冷たいハイセの唇が触れただけで、その温度差に体が反応しちゃう。
「い、いいから早く手当てしなさいよっ」
「ハイハイ」
「何よ、ハイセのバカっ」
いきなりあんな顔、しないでよ。
ここ学校なのに。
保健室、なのに。
…………もっとハイセに触れたく、なっちゃうじゃない。
そんなことを思ってしまうあたしの思考も、ほとほとバカだと思う。
「…………っ」
「……………」