第9章 ふたりの境界線
だから、のあとには例文としてはフォローする言葉が入るのであって決してディスる言葉が入るわけではないわ。
だいたい。
見慣れています、のあたりおかしい。
そこは犯罪だと思うのよ、あたし。
確かに小さな頃はいたわよ、犯罪者としてパパが警察に突き出した人たち。
写真を撮られたり、一緒に寝たり。
それが犯罪なんて大それたことだとは思わなかったし、ひとりでいなくていいなら構わなかった。
だけどハイセだけはベッドに入ってくることはなかったし、あたしが寝ると部屋を出て、朝早くあたしを起こしに来てくれた。
『もっとご自分を大事になさってください』
そう言って、使用人たちからあたしを守ってくれた。
と、思ってたのに。
「ハイセの変態」
変わらないじゃないか。
「いきなり何ですか」
「変態」
「は?」
「幼女の裸でも見たら犯罪なんだよ」
ハイセがそう教えてくれたんじゃない。
「………ずいぶん根に持ちますね。運転手さんに聞かれますよ?」
「変態」
「病気の時、僕以外部屋にいれなかったのはご自分でしょう?手を握ったまま離してくれなかったのは誰でしたか?」
「………ぅぅ」
「唸らない。………だいたい、6歳の子供の裸に欲情しませんよ」
ため息?
ため息ついたの?
今!
「……ああ、『それ』でしたか。朝から不機嫌な理由は」
「はぁ?」
「言葉使いにお気をつけくださいお嬢様」
「だ…っ、な……っっ」
駄目だ。
沸騰しすぎて言葉が出てこない。
「大丈夫です『皇様』、もちろんそのままで十分かわいらしいですよ」
なにが『皇様』なのよ。
わざとらしい笑顔もいらないわ。
「服を着ていても着ていなくても、毎日お嬢様に欲情しますから」
耳元へと唇を寄せ、小声で囁かれる言葉たち。
朝っぱらからなんてことゆーのよ、この人はっ。
「だから、機嫌直して」
「!!!?」
唇にふってきたのはリップ音付きの軽い軽い口付け。
思わずすぐ近くにいる運転手の人を視線だけで追えば。
「彼なら大丈夫。買収済みです」
「…………」
すべてにおいて完璧で。
用意周到。
だけど和泉様、飄々と『買収』をひけらかすものではなくてよ。
あたしがそれパパにチクったらあなた、クビなんだからね。