第9章 ふたりの境界線
「それは残念。僕は大好きですよ」
「〰️〰️〰️ッッ」
バタン、と勢いに任せて浴室のドアを閉めれば。
笑い声とともに聞こえた飄々とした声。
絶対おかしい。
なんでいつもいつもあたしばっかりこんなに余裕がないんだろう。
加えてなんであの男はこういつも余裕たっぷりなのか。
絶対絶対、おかしい。
「だいたい、お嬢様の裸なら10年前から見慣れています」
は?
シャワーの音に紛れて聞こえた声に思わず視線をドアへと向ければ。
ドアの向こうには見慣れた黒い影。
なんでそんなとこに突っ立ってんのよ。
出れないじゃない。
………いやいや突っ込みどころはそこじゃない。
「熱を出してお風呂に入れなかった時、お体を綺麗に拭いて差し上げたのは誰だとお思いですか?汗で濡れた衣服を着替えたのは?おねしょした時に……」
「もういいわ、ハイセ」
ドアをから顔だけ出してハイセの言葉を遮る。
これ以上聞いたらあたし、後々絶対立ち直れない気がする。
「ちょうど良かった。そろそろ出ないと遅刻してしまいます」
「だから、タオルだけ置いて出てってよ早く。変態さん」
「………誉め言葉として受け取ってよろしいですか?」
「どこをどうとれば誉め言葉になるのよ、おかしいんじゃない?」
パっと真っ白なふかふかバスタオルを奪うように手に取り、背中を向けたハイセにさらに背を向けてタオルで体を隠す。
「着替えるから出てってよいい加減」
「何か問題でも?」
「むしろ問題以外に何があるってゆーの」
「何もありませんね、なのでいい加減早く着替えて下さい。朝食抜きでもよろしいですか?」
「あんたの思考回路が今さらながら良くわからないわ」
「お嬢様に僕の頭の中がわかるなんて1ミクロも思っていませんのでご安心ください」
「………」
駄目だ。
日本語すら理解出来ない。
噛み合ってるの?
この会話は。
そもそも会話として成立しているのかさえ疑問だわ。
「こっち見ないでよね」
「ですから、今さら裸くらいで興奮しません」
「………」