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溺愛執事の恋愛事情

第9章 ふたりの境界線




は?


ちょっと待って!!
ここ、2階。
そんな颯爽と飛び降りる高さではなくってよ!?
しかもそんなに優雅な笑顔振りまいて降りていいところでもないわ、絶対。




反射的にシーツを体に巻き付けてベランダから庭を覗き込むけど。
すでにそこにはハイセの姿などなくて。
ドシン、とか。
ガシャン、とか。
そんな嫌な音もしなかった。



「…………やっぱり人間じゃないわね、あれは」


ため息と一緒にひとりごちた。






「お嬢様」




あ。
そうだ。



「今、開ける」


慌ててワンピースのネグリジェを頭から被り、ドアを開けた。




「お嬢様、まだそのような格好でしたか。迂闊にそのような格好でドアを開けてはいけません」
「………ハイセにでも洗脳されてるの?」
「?」
「なんでもないわ」
「そのような格好でうろうろされては、わたくしが和泉さまに叱られてしまいます」
「しないわよ、うろうろなんて」





「それは良かったです。お嬢様のそのような格好、あまり誰にも見せたくはありませんから」



「!!」





ハイセっ!?



「和泉さま!!おはようございます。申し訳ございません、和泉さまのお姿がお見えにならなかったもので。朝食のご用意が整いました旨を、お伝えに」
「ああ、構いません。少し私用があって出ていたもので。朝食も用意できず、申し訳なかったです」
「いえそのようなこと……。お嬢様、和泉さま、失礼致します」




ち、ちょっと待って。
なんでそんな涼しい顔しちゃってんのこの人。
さっきそこのベランダから、飛び降りなかった?
あれ。
ハイセ、もしかしてクローンなの?
何人もいるの、ハイセのクローン。


「………難しい顔して、いかがいたしました?」



気付けばバタン、とハイセが後ろ手にドアを閉めているところで。
その手にはシワひとつない、真っ白な手袋。
に。
これまたシワひとつなくピシッときめた、燕尾服。



うん。
絶対これ、さっきのハイセじゃない。
たった数分で、ここまで完璧に着こなせるものじゃないわ、これ。


「ハイセ」
「ええ」
「クローンは駄目よ、犯罪よ?」



「━━━━━は?」



日本ではまだ、いえ世界にも。
おおっぴらに認められてはいないもの。



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