第8章 溺愛執事の事情
「は?」
今、なんて?
我慢しすぎて幻聴まで聞こえたかな。
そこまで行くとさすがにな。
ヤバいだろ。
「ハイセ、オルゴール取って来て」
「オルゴール?」
視線に合わせて、サイドテーブルへと視線を向けると。
見覚えのあるオルゴール。
以前プレゼントしたやつだ。
言われたとーりに持ってくれば。
「開けて」
楽しそうに笑いながら、そう促す彼女。
指示に従い開けてみると。
「………これ」
「ね?あったでしょ」
たったひとつだけ、豪華なオルゴールには到底不釣り合いな代物。
やけにコミカルで。
甘い匂いのする。
━━━━━━━……。
『……ね、ねぇ?ハイセ』
『はい』
『すっごく場違いなの、あんた気付いてる?』
『特に気にはなりませんが』
『じゃぁちょっと気にしてくれるかな、ハイセくん。普通ランジェリーショップに男の人は躊躇するものだし、第一入っちゃ駄目なのよ』
『そんなことございませんよお嬢様。普段なら恋人同士で仲睦まじくこちらを訪れる方もちらほらいらっしゃいますから』
『………なに、普段って』
『前にも申し上げたと思いますが、お嬢様のクローゼットの中身は誰が定期的に管理してるとお思いですか?下着とて、例外ではありません。━━━こちらに致しましょう。最近お嬢様、サイズがアップしたようですので、全部お取り替えした方がよろしいかと……』
『お願い……。怒る気力も脱力する元気もないから、これ以上あたしを公衆の面前ではずかしめないでくれる?』
『申し訳ありません、気付きませんでした』
『…………ちょっと離れてていいかしら』
『ええ、会計しておりますのでどうぞ店内ご覧になられて下さい』
『…………』
そうだ。
確かあの時、の。
『ハイセ!見て!』
『…………は?』
『じゃーん!!かわいいでしょう?さっきのランジェリーショップで見つけたのよ。ハイセがお会計してる間に買っちゃった』
『お財布、お持ちでしたか?』
『今時はね、携帯あれば買えるのよ』
『…………』
『何よ、そのため息』
『公衆の面前ではずかしめないで欲しいのでしたらそちら、おしまい下さい』
『………なんでよ』