第8章 溺愛執事の事情
「え」
皇の口から飛び出た言葉は、一瞬にして思考を全停止、させた。
「ごめんなさい……っ、あたしが悪いの、わかってる。わかってる、けど。触れたくないのも、わかる、けど。でも、嫌いに、ならないで……。いなくならないで……」
嫌う?
触れたく、ない?
誰が?
悪い、のは、誰だって?
「ハイセ……。大好き。すごくすごく、大好きなの。ハイセじゃなきゃ、嫌なの……」
「━━━待って。待て待て待て、ストップ、皇」
話が見えない。
録音したいくらいの告白は素直に嬉しい。
嬉しい、けど。
「俺が皇を嫌う?ありえねーんだけど」
「ぇ」
「24時間365日、1秒だって皇に触れたいって思わない時なんてないし。隙あればいつだって皇に触れたいし、抱きたい。ずっとずっと、ベッドに縛り付けておきたいくらいに、年中皇を想ってる」
「………ぇ」
驚きに見開かれた瞳は、赤く充血していて。
まっすぐに俺を見つめてくる。
それだけで。
下半身の痛みはさらに深刻になっていくのに。
「だって……ならなんで」
「?」
「あたしが、汚れたから……抱いてくれないんじゃ、ないの?」
不安に大きく揺れる瞳は、傷付いたように視線を外す。
「━━━━━━」
『これ、欲しい……』
バカだ、俺は。
不安にさせてたなんて。
恐怖と絶望と、世界中の不幸全部背負ったくらいに落ち込んでる彼女に。
さらに追い討ちをかけるように。
俺が。
こんなにも追い詰めてたんだ。
「違う、の?」
不安と、期待の入り雑じった声。
表情。
〰️〰️っああ、もうっっ!!
「ハイセ?」
頭をブンブンとふる、俺の行動に。
真下から彼女が覗き込む。
「………ない、から」
カッコ悪くて。
みっともなくて。
思わず無意識に小声になってしまう。
「ハイセ?」
だけど。
皇を不安にさせるよりは。
泣かせるよりは。
ずっといい。
「今、持ってないから」
格好悪くても。
情けなくても。
男のプライド、とか、虚勢、だとか。
そのなものどうでもいい。
「持ってないんだ、だから、ごめん」