第7章 お嬢様の涙
少しだけ開いた唇から少しずつ舌を侵入させれば。
途端に、先ほど同様ビクン、と強張る体。
に。
嫌でも根付く、疑問。
「もしかして、あの男にキス、されました?」
「………っ」
疑問が、確信に変わる。
「ごめ……っ、ハイセ……っ」
「泣く必要などありませんお嬢様」
やっと止まったばかりの涙をまた、溢れさせ。
それさえも嫌悪するよう彼女は涙を自分の手の甲で強引に拭う。
さらに赤くなりそうな目元から手首を掴んでゆっくりと引き剥がし涙に唇を寄せた。
「気持ちのない口付けなどキスとはいいません」
「ぇ」
「………気持ち良かったですか?」
もちろん肯定されるはずないとわかった上で投げ掛けた言葉。
彼女はいつもの強気な瞳を俺へと向けてにらみあげた。
「………冗談です」
少しずつ、少しずつだけど。
いつもの皇に戻ってきた気が、して。
無意識に口元が綻ぶ。
「僕とのキス、思い出してくださいお嬢様」
「………」
「全然、違うでしょう?」
涙で潤んだ両目が、真下で揺れる。
「『上書き』、して差し上げますよ」
唇をゆっくりと重ねて、強張りが解けるまで、手を握った。
頭を優しく撫でた。
啄むように唇を寄せれば。
彼女は自分から、遠慮がちに口を開く。
そのまま舌を侵入させ、ゆっくりと上顎、下顎、頬っぺた、歯列へと、舌を這わせる。
ぎゅー、って。
痛いほどに俺の手を握り返す彼女の力が徐々に緩んで。
そっと瞳を開ければ頬を紅潮させ、トロンとキスに身を預ける皇の姿。
恐怖を感じていないことを確認し、舌を絡ませた。
「ん、ん、んむ……っ、ふ、んんぅ」
鼻から抜ける吐息が、艶めかしくて。
興奮していく自分を抑えられない。
だけど今は、今日は絶対駄目だ。
自分の欲望のまま彼女を抱いていいのは今じゃないから。
理性を総動員させて、耐える。