第7章 お嬢様の涙
あれから。
お嬢様を見つけてから、すでに数時間が経過している。
ましてや一度、意識までなくしたんだ。
あの薬がなんなのか考えるまでもないが、普通ならすでに効果は切れているはず。
なのに。
彼女の口の中は驚くくらいに熱かった。
つまりあれからずっと、持続していると言うこと。
「………お嬢様」
「ごめんなさい、ごめんなさいハイセ」
「大丈夫、謝らないで」
溢れる涙を人差し指で拭いながら、それでも溢れて止まない涙に唇を寄せる。
「………怖い、ですか?」
涙を拭うだけでビクンと跳ねる体が語るのは、拒絶。
だけど。
それに勝るくらいに体は火照っていて。
自分でもどうしようもないくらいに、体と頭がバラバラになっているのが良くわかる。
拒絶する体と、求める意識。
真逆な感情に、戸惑うように瞳が揺れた。
「少しだけ、我慢出来ますか?」
「………ぇ」
「気持ち悪いのならば、その感覚、上書きして差し上げます」
「う、わがき……?」
「ええ」
『でも……』
なり損ないの言葉を小さく口から漏らし、彼女は視線を外す。
わかってる。
ほんとはこんなの、こんな荒療治するつもりなんてなかった。
だから、ドアの外で一晩中でもついててあげるつもりで……。
それで皇が、お嬢様が安心して眠れるならと。
俺の睡眠くらいくれてやるつもり、だった。
だけど。
「大丈夫。目の前にいるのは、誰です?」
真逆の感情に皇が壊れてしまう前に。
熱の発散場所がなくて困っているなら、荒療治だろーがなんだろーがこうするしか方法がないだろう?
困っているときにこんな方法しか思い付かない自分が情けないけど。
これ以外に今は思い付かない、から。
「誰です?お嬢様」
「……ハイセ」
「正解。ほんとに俺が怖い?皇」
「………わ、からない」
………なら。
俺が、怖いなら。
「お嬢様」
「………」
「僕はお嬢様の執事でしょう?」
「………ぅん」
「触れてもよろしいですか?」
「………」
「━━━━━触れます、ね」
「…………うん」