第7章 お嬢様の涙
子供のように泣きじゃくる皇を、しっかりと腕の中に閉じ込めて。頭を優しく撫でていれば。
いつしか泣きつかれてまた、その瞳は閉じられた。
そのままベッドへと横にし、寝息が聞こえたのを確認して。
ドアへと向かう。
けど。
「………ハイセ?」
眠ったと思った彼女の、不安気に揺れる声。
「どこいくの?」
不安を払拭するように笑顔で振り返り。
「大丈夫。今夜は一晩中、ドアの向こうにいますから。悪夢にうなされたらすぐに駆けつけますよ」
安心させるためにそう、告げた。
「………なんで?」
「え?」
「なんで今日はドアの向こう、なの?」
なんで。
なんで、って。
「いつもみたいに、そばにいてよ」
だって。
怖いでしょう?
俺を見る視線に、恐怖の色が見える。
戸惑い。
不安。
恐怖。
俺を見つめる彼女の瞳はまさしくそれに支配されている、のに。
「お願い……いかないで」
それでも。
ひとりの恐怖のが勝るって、ことか。
怖いはずなのに。
俺が。
『男』そのものが。
怖くて仕方ない、はずなのに。
それでも……。
彼女が感じた計り知れない恐怖に、喉の奥から苦い何かが、込み上げてくる。
「ハイセ……」
薄暗い部屋の中、俯く彼女から聞こえた小さな嗚咽。
震える肩があまりにも儚げで。
気が付いたら彼女を抱き締めていた。
抱き締めた瞬間に、ビクン、と小さく反応する彼女に。
「すみません、触れてもよろしいですか」
体を離し、再度笑顔で問いかける。
「………」
コクン、と小さく頷いた彼女に。
ゆっくりと、手を握り、反応を見ながら抱き締めた。
「………怖い、ですか」
「少し、だけ。……ごめんなさい」
「謝る必要などありません。大丈夫だから」
「……ごめんなさい」
小さく、小さく嗚咽が耳元で聞こえる。