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溺愛執事の恋愛事情

第7章 お嬢様の涙





「は?━━━━っんぐ」




ふたりがかりで体を押さえつけられて、強引に上を向かされて怪しげな錠剤を飲まされようとしているのは。
紛れもなく最愛の、お嬢様。
涙で顔をぐちゃぐちゃに歪めて。
苦しげに吐き出す呼吸も乱しながら。
それでも抗うように唇をギリッと噛み締めて。
決して無事とは言えない姿で。


彼女は、そこにいた。







「━━━━っ、はい、せ」




苛立つ気持ちを押さえて、3人が気をとられている間に歩みよりながら。
男の手に揺れる錠剤をそのままつかみ口の中へと押し込んだ。
人間、咄嗟の時の反応は遅れるものだ。
それが予想外の出来事ならば、なおさら。
その証拠に男はあっさりと口に押し込まれた薬をそのまま飲み込んだのだ。



「……今…っ」
「あっさりと飲み込みましたね。お楽しみが増えてなりよりです」
「お前、なんで!?だって指輪壊した、はず……」
「追跡装置がひとつなんてこと、あるわけないでしょう?彼女を誰だとお思いですか」


 引きちぎられたドレスの、哀れもない姿の彼女にギリッと奥歯を鳴らしながら。
彼女には苛立ちを気づかれないよう、笑顔でふわりと自分の来ていた上着を掛けた。



「遅れて申し訳ございません、お嬢様。さぁ、帰りましょう」

屈んで彼女と目線を合わせれば。
安堵したように瞳が揺れた。
けど。

「━━━!!ハイセっ」


直後、彼女の視線は俺を通り越し、代わりに恐怖に揺れた。
不安にさせないよう、笑顔のままに、右腕だけを男の顔面めがけて振り上げれば。
簡単に床へと男がひとり、倒れた。



気配がただ漏れだ。
振り返らなくたってどこにいるのかわかるくらいには。
もう一人。
ドラマなんかだと襲いかかってくる場面だか、いつの間にかいなくなっていて。
目の前では30代だろうか、男がひとり、呼吸を乱し蹲っていた。
お嬢様を抱き抱え、右足だけで男の肩を押せば。
簡単に崩れ落ちていく。

「━━━苦しそうですね」


懇願するようにすがる視線を送る彼へと無表情に視線を向け。


「一生苦しめ」


足の間めがけて。
勢い良く踵を振り下ろした。


途端に聞こえた断末魔の如く、悲鳴。
ぎゅ、と彼女を胸元へと引き寄せ、汚い悲鳴など聞こえないよう耳をふさいだ。
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