第6章 紫原敦
「そんな訳…!…。」
「なら離してください。
私は帰りますから。」
口調は冷たいが
さやの顔は何かを確信したように笑っていた。
「(こりゃもうバレとるな…
くそっ嫉妬して言うなんてかっこ悪いにも程があるわ)」
「翔一…私に触れたいでしょう?」
「っ…!呼び捨てなんて卑怯やわ…
……好きやでさや
ワイの事もお前のもんにしてくれや…」
今吉はさやの手に引かれる様に
初めてその唇に触れた。
小さい唇
柔らかくて、熱くて溶けそうだった
ぬるっと舌を滑り込ませば
さやの舌も口内に入り込んでくる。
「んんっ…んはぁ…」
「っ…はっ…ん」
長い長いキスが終わり
2人はお互いの顔を見つめると笑った。
今吉の顔は苛立ちも消え
ひどく穏やかな表情だった。
「やっぱ好きやわ自分」
「私も好きですよ翔一さん」
「ええなあ、これ
ワシ今幸せやわ…」
今吉は優しくさやを抱き締めた。
さやは背中に腕を回し
今吉の胸板に顔をうずめた。
*
「なあ、いいやろ」
「だめです。今日は家には入れません」
「かぁー!頑固やなぁ!
さっきまでの可愛いさやちゃんはどこいったんや!」
甘いひと時を過ごしたさやと今吉は
いまさやのアパートの前で
泊まる泊まらないで押し問答中
「今は翔一さんの番じゃないからです」
「はぁあ!?なんやそれ!
てか翔一って呼べゆーてるやろ!」
「…悪い子ね翔一
悪い子にはお仕置きが必要かしら?
それともいい子になるよう餌付け…?」
さやは笑みを浮かべると
頬と首筋を優しく撫で、キスをした。
ぺろりと下唇を舐め上げ、妖しく笑う。
固まる今吉を放ってアパートに入った。
「またね翔一。好きよ」
「またやられたわ…」