第8章 誠凛vs秀徳
そんな事言われ初め
皆、私がキャプテンでもないのに
『さやがそう言うならそうだよ』
『じゃあキャプテンはさやより
点を多くとれるんですか?取れないですよね?』
『さや様』
『さや様』
『さや様』
『『『仰せのままに』』』
歪な女帝崇拝
私は戸惑い、悲しみ
それでも言えなかった
盲信的な女バス部員たちが
月バスに取り上げられ
変わってしまった世間の目が
『もう、やめて
こんなの私じゃない…ほら、私はこう笑うんだよ…!』
『は?やめてはこっちだよ
今更あなたのそんな笑い方誰も求めてない』
『……そう。わかったわ
私にひれ伏しなさい。全て私のものよ。』
もう止められない
"女帝"紅林さやは始まってしまった
*
それから妖しく笑う事が癖になった
それでしか笑えなくなった。
黄瀬達の前では
女帝ではなくさやで居られたから
前のように笑う事もあった
それ以外ではどうしても出来なかったのに
(確かに今日私は皆と笑っていた…)
それがいい事なのか
悪い事なのか、わからない
今は男子バスケ部無名の紅林さやだから…
少しくらい…
と思ってしまうのは、私の覚悟が足りないのか
「…さやっち?」
はっとして黄瀬の方を見ると
心配そうな顔をした黄瀬が顔を覗き込んでいた
周りはもう静かな住宅街を抜けて
駅前の騒がしさが辺りを満たしていた。
「大丈夫っすか?
なんか考え込んでたっすけど」
「…ええ。大丈夫よ
……涼太、私が好き?」
「っちょ、いきなりっすね!
もちろん大好きっす!愛してるっすよ」
凄く暑いはずなのに
体は寒くて、心が凍っていく気がして
涼太の好きを求めた
愛おしいこの歪で狂ったこの関係が
間違っているとわかりつつ
黄瀬の優しく抱き締める腕の中で
さやはひどく安心した