第2章 身代わり
「律花さんとなにを話していたの?」
車を運転しながら、ケイトが問う。
「今度公開の映画を見に来てほしいって言ったよ」
ちくりと罪悪感が棘となる。
わずかに翳ったおもてを隠すように、瞳を伏せた。
「密花………?」
名前を呼ばれ、『なんでもない』と微笑ってみせる。
(いけない。今の私は『密花』なんだから)
深く息を吸い、ざわめく心を鎮めようとする。
けれど黒く塗りつぶしたように、消えない胸騒ぎ。
(どうあれ二時間後には元の生活に戻れるよ。
だからそれまで、あの子を演じれば………。)
TV局の前で停った車。
「行こう、ケイト」
『密花』として微笑い、中へと消えていく。
その後ろ背を追いかける視線に、彼女は気づいていなかった。