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偽物女優【恋プロ長編◆裏】

第2章 身代わり


「密花………?」

名前を呼ぶと、青い瞳が我に返ったように揺れた。


「なんでもない。

それより姉さん、ひとつ頼みがあるんだけど………。」

なにも知らない姉は、嫌な顔一つせずに微笑う。


「あなたが頼み事をするなんて珍しいね。何をしてほしいの?」


(ごめんなさい、姉さん………。)

心で詫びつつも、唇は願いを紡いだ。


「二時間だけ、私と入れ替わって!」


「っ………それって」

驚きにみひらく瞳。

同じ色彩なのに、宿す光は自分とはまるで違う。


「同じ顔、同じ声の私達ならきっとばれないよ。

ねぇ………お願い!」

できる訳がない。

志していた時期があるとは言え、演技はあなたに適わないのだから。



本心は喉の奥で殺した。



「二時間だけ、なんだね?」


「姉さん、ありがとう………!

二時間経ったら戻るから、それまで私のふりをして」

抱きついてきた儚い背に腕をかける。

そのおもてが複雑そうな笑みに染まっていることに

彼女は気づいていなかった。


「密花………あなた、」

祖母が唇をひらきかけると、黙ってと目で制される。


(大好きで、………大嫌い。

いつの間に………姉さんに対してこんな風に思うようになってたんだろう)


(ごめん、ごめんね………姉さん)

荒れつづける胸を押し込めて、彼女は微笑っていた。



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