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偽物女優【恋プロ長編◆裏】

第1章 朧の記憶


恋花市の管轄下にあるとある施設。

その裏庭で、十をすぎたばかりの少女が蹲り泣いていた。


「こんなところにいたのか、アリス」

声をかけると、黒檀をなびかせ ふり返る。

わずかに強張ったおもては、強いて笑みを作っていた。


「フェガ、エルド………。どうしてここに………、 」


「それは此方の台詞だ。おまえこそ、なぜ泣いているんだ」

フェガの灰色の瞳が彼女だけを映す。


「なにが遭ったの………?」

エルドの海色の双眸は、案じるような色を宿していた。


「リビーがね、死んだんだ………。」

声に載せたとたん、ぽろぽろと雫が、頬を頤を伝う。

彼女と仲の良かった、ここに住まう少女の名だ。


「リビーが………? どうして、」


「わたしが、アリスだから。

リビーやみんなと遊ぶのを禁止されてたのに、

わたしと一緒にいたから………。

だから………わたしのせいなんだ」

かんだ唇が、震えていた。

けれど、ぞんざいに涙をぬぐうと 儚く笑んだ。


「フェガたちも、もうわたしといたら駄目だよ。

わたしは、アマリアが言う通り、疫病神なんだから」

『なかに戻るね』。

そう言って微笑ったおもてがあまりに痛ましくて

エルドは手首をつかんで引き寄せた。

気づいたときには、彼に抱きしめられていた。


華奢だと思っていた彼は

存外に逞しく、その腕のなかは温かだった。





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