第6章 直情径行
そして、もうひとつ…体の弱かった先代が亡くなる間際に言ったこと。
〖衣月…私と光明は恋仲にあったの…でも、それを神々は許さなかった…もし、あなたが誰かとそうなる事があるなら…貫きなさい…あなたには…煌玄という法名を授けるわ…私と光明の約束だから…次の継承者には同じ文字を付けようって…あなたは私と光明の大切な宝物。大切な二人の娘。私はあなたが大好きよ…生まれてきてくれてくれてありがとう…〗
そう言って微笑みながら眠るように先代は息を引き取った。
あの事故が起こる前は三蔵法師になんかなりたくないと思っていた。
いつか、こんな寺なんかくだらない修行なんか放棄して結婚して子供を産んで幸せになるんだって思ってた。
しかし、それも叶わなくなった。
絶望していた心に先代は…母親は…幸せになれと言った。
これは三蔵には今は秘密。
三蔵とはずっと…ずっと…一緒にいるって決めたんだから。
誰がなんと言おうと絶対に離さない。
それで三蔵法師の任を解かれたって構わない。
愛する人と居られないって言う理由が三蔵法師同士だからなんて言うなら…
師匠…ごめんなさい…
三蔵法師なんて役職はいりません。
経文だって欲しいやつにくれてやります。
それでも神々が反対するなら神々だろうと
あたしはケンカを売りにいきます。
衣月は三蔵と一夜を共にしたことにより、
改めて新たな決意をした。
三蔵がシャワールームから出てくると衣月は三蔵に優しく微笑みかけて、軽く触れるだけのキスを三蔵の唇にすると、シャワールームに向かった。
『ククククッ…かなわねぇなぁ…』
三蔵はそう言って額に手を当て…呟くように言った。
その口元はどこか嬉しそうにしていた。
いつもは下ネタを言ってヘラヘラと笑っているはずなのにたまに見せる人に有無を言わせないあの瞳。
そして、キレやすいクセに誰よりも寛大な心。
三蔵はどこか己の師と重ね合わせていた。
そういう意味なのかは分からないが衣月には惚れた弱みとは別にどこか敵わないところがあるなと思った。