第16章 神色自若
『ココに残るつもりなのか?』
三蔵はそんな衣月を見ずに俯いて血が滲むくらいに右手を握りしめながら言った。
その声は震えていて泣きそうだった。
『そのつもり…だからさ…お願いだから…もう…あたしに触らないで…近寄らないで…どうせ、あたしにはめっちゃ甘い尼僧の1人が契約した時の症状だって気づいて…伝えたんだろうけど。』
そう言った衣月の瞳には涙が浮かんでいた。
『師匠から聞いたことがある…師匠の愛した人もそうやって離れていったと…巻き込んだことを謝って去っていったと…俺は…お前が飛仙として修行していたころから…1人の女として愛していたと思う…お前が去ったあと、師匠に連れられて何度か来たこともあった。あの時も今のように自分を偽って生活していたのを知っている…会う度に弱っていく愛する人をみて…必ず師匠は帰り道で俺に言った…〖江流…愛した人は離したらダメですよ…相手が離れると言ってもね。〗と…だから…だから…俺はお前を離すつもりなんかねぇ。三蔵法師の掟だ?んなもん…知らねぇよ…』
三蔵の声は完全に涙声になっていた。
衣月以外の人達は三蔵が泣いているという事実に驚き戸惑っているようだ。
『泣かないでよ…そんなこと…言われたら…離れられなくなるじゃん…』
衣月はベットから出ると三蔵に近づいて抱きしめた。
『泣いてねぇよ…』
明らかに震えた声で三蔵はそう言うと衣月を抱きしめ返した。
『やはり……三蔵法師であるお方がそのようないかがわしいことを…この者が余計な事をしたばかりに。このまま亡くなって頂けたら良かったものを。』
部屋の入口から聞こえたのは中年の女性の声。
そこには先程、5人に知らせに来た尼僧が俯いて女性と一緒に立っていた。