第6章 タピオカミルクティ 【for 春鹿様】
「何ですか、この面妖な物体は…」
片手で口元を隠し、目を見開き、眉間に皺を寄せて、芥川はプラスチック容器を見つめた。心なしか、羅生門の端も、ささくれ立ってキリキリと舞っている。
「タピオカミルクティ。知らないの?」
心底驚いた顔で芥川を振り返り、は其の容器を芥川に差し出した。黄土色の液体の中でぷかぷかと漂う、得体の知れない物体に、芥川は一歩後ずさる。おおよそ、人類が摂取する食物とは言い難い外見に、容器に触れることすら遠慮したいと、顔を顰めた。
「おい、羅生門片付けろ。危ねェぞ」
警戒態勢の外套を一目見て、芥川の背後から何事かと中也が顔を出す。何だタピオカかと、興味を失ったように椅子に腰掛ける中也を、芥川は視線で追った。
「中也さんは、蛙の卵を食すのですか」
「何云ってんだ手前」
不意にかけられた、あられもない言葉に、中也は口角を痙攣らせる。一体何の話だと、と目を見合わせて、首を傾げた。
「タピオカ、知らないみたい」
が優勝杯よろしくタピオカミルクティを掲げると、芥川は驚いた猫のように外套を逆立てる。猫じゃらしと格闘する猫と化した芥川を、中也は鼻で笑った。