• テキストサイズ

【文豪ストレイドッグス】中原中也短編集

第6章 タピオカミルクティ 【for 春鹿様】


「何ですか、この面妖な物体は…」

片手で口元を隠し、目を見開き、眉間に皺を寄せて、芥川はプラスチック容器を見つめた。心なしか、羅生門の端も、ささくれ立ってキリキリと舞っている。

「タピオカミルクティ。知らないの?」

心底驚いた顔で芥川を振り返り、は其の容器を芥川に差し出した。黄土色の液体の中でぷかぷかと漂う、得体の知れない物体に、芥川は一歩後ずさる。おおよそ、人類が摂取する食物とは言い難い外見に、容器に触れることすら遠慮したいと、顔を顰めた。

「おい、羅生門片付けろ。危ねェぞ」

警戒態勢の外套を一目見て、芥川の背後から何事かと中也が顔を出す。何だタピオカかと、興味を失ったように椅子に腰掛ける中也を、芥川は視線で追った。

「中也さんは、蛙の卵を食すのですか」

「何云ってんだ手前」

不意にかけられた、あられもない言葉に、中也は口角を痙攣らせる。一体何の話だと、と目を見合わせて、首を傾げた。

「タピオカ、知らないみたい」

が優勝杯よろしくタピオカミルクティを掲げると、芥川は驚いた猫のように外套を逆立てる。猫じゃらしと格闘する猫と化した芥川を、中也は鼻で笑った。
/ 44ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp