第5章 ゆるふわ
街も寝静まる夜更けに、は頭から温いシャワーを浴びる。ざぶざぶと流れ落ちる水で、身体を洗い流していると、突然バスルームの扉が開いた。脱衣所からやけに楽しそうな表情の太宰が、顔を見せる。
「森さん、洗ってあげようか」
の返事も聞かずに、太宰は服を脱ぎ捨てて、バスルームに滑り込んだ。持ち込んだバブルバスの薬剤を、湯を張った浴槽に放り込み、ジャグジーで盛大に泡立てる。浴槽の傍にしゃがみ込んで、指先で湯加減を見る勝手気儘な太宰に、何を云っても無駄かと、は彼より先に泡だらけの浴槽に身を沈めた。
「中也にご褒美の先払いしたでしょ」
情事の跡が目立つの胸元に、太宰は口先を尖らせる。彼は其の泡まみれの指先で、に残る鬱血痕を数えるようになぞった。
「一寸、彼奴に甘すぎるんじゃない?」
「太宰君も…大概だと思うけれど」
他人の家の、然も使用中のバスルームに闖入した上に、勝手に浴槽を泡立てるよう教育した覚えは、更々無い。重ねてが寛いでいる浴槽に、今まさに滑り込んでいる太宰には、他人を甘いだの何だの云う資格は無さそうだ。