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【文豪ストレイドッグス】中原中也短編集

第5章 ゆるふわ


血溜まりに沈む男を一瞥もせず、ポートマフィアの首領は其れを通り過ぎる。構成員が膝をつく中を、艶のある黒髪を靡かせて横切ったは、立ち止まり、酷く冷たい目で振り返った。

「徹底的に潰して」

「承知しました」

脱帽して頭を下げていた中也が答える。興味を失ったように再び現場を横切るを、全身包帯まみれの太宰が出迎えた。の後ろに控えていた中也は、あからさまに嫌な顔をする。

「森さん、おかえり。此方は手筈通りだよ」

「随分と早かったね。では中也君を手伝ってあげなさい」

ゲッ!と潰れた声を漏らした太宰とは裏腹に、中也はハァ?と高らかに不満を訴えた。

「包帯の付属品なんかに手を借りなくても終わらせます!」

「帽子が蒸れて小学生未満の作戦しか出てこないんじゃない?!」

殴り合いそうな勢いで向かい合い、互いを罵り合う二人に、はため息を漏らす。辞めなさいと云う制止の言葉が届いたのかそうでないのか、睨み合い牙を剥いたまま、喧しい舌戦は休止した。

間に割って入るように二人の肩に手を当てて、は囁くように声を漏らす。まるで秘密の言葉のように、密やかで甘い響きが中也と太宰の耳を打つ。

「ご褒美でも用意して、善い報告を待っているからね」
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