第2章 真夏の邂逅
濡れた方が綺麗だと、中也は彼女の肌を見て思う。泳ぐつもりが無いのなら力づくで沈めるまでと、浮き輪に手をかけると、女は最も簡単に沈没した。水中で見る彼女の肢体は、矢張り想像以上に綺麗で、愉快なこと此の上ない。
溺れたようにもがく彼女の腕を取り、水中から引き上げるが、彼女は触れた部分を大層痛がった。まるで火傷と大差ない其の腕の日焼け痕に、中也は眉根を寄せる。
「炎天下で海に浮いてるからだろ、勿体ねェな…」
痕が残らないと善いと、其の日焼けを見る中也を他所に、彼女は言い訳を垂れ流した。部下の不始末に関しては詫びる所ではあるが、其の後に続いた自己評価の低さは頂けない。此所まで女として完成された身体を持ち合わせて、如何したらそこまでの逃げ腰に行き着くのか、其の過程がサッパリ分からない。
今、中也が如何云う状態なのか教えてやろうと、彼女の足の間に滑り込んで、既に反応している自身を押し付ける。頰を染めて恥じらう彼女が、時折日焼け痕を痛がって声を上げる所為で、未だ身につけている布越しだと云うのに、処女を抱いているような錯覚を起こしてしまう。
熱を帯びて蕩けた彼女の瞳の中に、中也が映る。真夏の空に逃げて、目を伏せていた女の、本音を捕まえた。
「」
名を呼ぶと、反応するように、彼女は中也に手を伸ばす。
「手前は…逃げねェのか?」
中也の問いかけに、答えはしなかった。代わりに、先ずは事実確認とばかりに、他の逃げ出した人間たちの生死を確かめる疑問文が帰ってくる。中也は唯、現実を並べ立てた。抵抗して死んだ奴もいるが、組織に寝返った奴もいる。全員死んだと勘違いしているの誤解を解いてから、中也は再び問いかける。
「手前は、どうする」
結局、生死を選ばせるだけの無策で無残な結末に、嫌気が指した。学者に関わるなど、金輪際お断り申し上げたい。
「生きてたら、善いことあるかな…」
「知るかよ。死んだら善いことなんてないだろうがな」
は、まるで涙でも流しそうな表情で、其れもそうだと笑った。
That's all.