第11章 初陣
―壁外調査前日。
ティアナはこの日になっても一日中落ち着いていた。
すっきりとした気持ちでご飯を食べ、訓練をし、
もし明日命を落としても悔いはないと言えるほどだった。
中には緊張で嘔吐している兵士や、一周まわって陽気になっている
兵士もいたが、大抵は若干の緊張と共に真剣な兵士が多かった。
ベルはティアナと同じで、少なくとも表面上は
落ち着いているように見える。
「ベル、怖くない?」
「ティアナこそ。…私は、何だろ。実感できてないだけだと思う」
「実感…」
夕食やお風呂もすまし、後は寝るだけの状態で部屋で二人は話す。
明日は朝早くから慌ただしくなるので、きっとゆっくり話せるのは
今だけだ。
「そう、何ていうのかな…巨人を前にした時の恐怖とか、明日
死ぬかもしれないっていう実感、かな」
「それは私もないなぁ…」
「多分ティアナも私も同じなんじゃないかな?実感のなさが
落ち着いているように見せかけているだけで、きっと明日はそんな
気持ちじゃいられない」
「…確かに、そうかも」
的確に分析するベルはさすがだな、とティアナは思う。
ティアナだって座学はいい方だったけど、人の心理とかを見抜く
のはベルが得意だ。
「…ねぇ、ベル」
だから、ほら。
少し不安が混ざったティアナの呼びかけだけでも想いを読んでしまう。
「大丈夫、私はちゃんと生きて帰ってくる、何回だって。だから
ティアナも約束して?」
「うん、約束する。絶対に」
兵士である以上、遅かれ早かれいつかは巨人によって
命を散らすのだろう。
それでも。人の心からの誓いや思いは、
時に効力を発揮するものなのだ――