第5章 おとぎのくにの 3
「違うんです!嫌ではないんです!ただ…な、何だかものすごく悪いことをしているような気がしてしまって…」
「ああ、それはすごく分かるよ」
必死に訴えるカズの言いたいことはよく分かる。
俺たちは幼い頃からきっちりテーブルマナーを叩き込まれている。
カズは侍女だけど、サトと全く同じ教育を受けてきたと聞いているし、公爵家以外の世界を知らない。
立って歩きながら、しかも手掴みでものを食べるなんて…カズはそんなこと考えたこともなかったんじゃないかな。
俺だって初めて見た時はカルチャーショックを受けた。
「でもさ、見てよ。ここでは当たり前にみんながやってることなんだよ」
そう言って改めて周囲に目を向けると、カズも一緒に周りを見回す。
昼時なのもあって、俺たちと同じように食べ歩きを楽しんでいる人は大勢いる。
みんな好きな食べ物や飲み物を手に、楽しそうに食べながら歩き回っている。
「郷に入っては郷に従えってね。嫌じゃないならカズも一度経験してみようよ」
カズに視線を戻してその目を見つめたら、カズはこくりと頷いてくれた。
「確かに行儀は悪いけどさ、こうやって食べるとすごく美味いんだよ。もしかしたら、やっちゃいけないことしてるっていうのもスパイスになってるのかも?」
笑いながら一口かじったら、カズもふふっと笑って。
大きく口を開くとラップサンドにかじりついた。