第5章 おとぎのくにの 3
ーサトsideー
「まぁ、カズ!とても似合うわ!私の見立ては正しかったわね!」
「カズ、すごく可愛い!」
「奥さま…サトさま…私、やっぱり…」
いつもと違う装いで不安そうに立っているカズは、お母さまと私がどんなに褒めても、ずっと泣きそうな顔をしている。
今日のカズは、私とお揃いのドレスでも、めったに着ることのない侍女のお仕着せでもなく、とてもシンプルなワンピースを着ている。
ドレスのような華やかさはないけれど、カズに似合う可愛らしいデザインだ。
いつもはまとめて結い上げている髪はハーフアップにして下ろされ、ワンピースと同色のリボンが結ばれている。
どこからどう見ても立派な町娘風…らしい。
屋敷から出たことのない私は、本物の町娘の方に会ったことも見かけたこともないから分からないのだけど。
お母さまと侍女たちが、それはそれは楽しそうにああでもないこうでもないと相談して決めていたから、たぶん町娘風に見えるんだろう。
ちなみに“風”というのは、ワンピースを用意したのがお母さまだから、当然かなり上質なものらしく、見る人が見れば普通の町娘が身につけるようなものではないと分かってしまうからだそうだ。
こんな格好のカズは初めて見たけど、とても似合っていて可愛らしい。
元々童顔なカズだけれど、ドレスの時より更に幼く見える気がする。
「カズ笑って?本当にとても似合ってて可愛いんだから。ジュンも喜ぶよ」
ジュンの名前を聞いて、カズはますます顔を曇らせる。
「…どうしても行かなければダメなんでしょうか?」
「カズがどうしても行きたくないなら仕方ないけど…今さら行かないって言ったらジュンは悲しむと思うよ」
カズは目を潤ませて唇を噛み締めていたが
「カズだって本当に行きたくないわけじゃないでしょ?」
「でも…サトさまを差し置いて私だけなんて…」
悲痛な声でそう呟くと、ついに堪えきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
慌ててハンカチで涙を拭ってやって、カズを抱き寄せる。
どうしてカズがこんな格好をして、こんなにごねているかと言うと、ことの発端はジュンの誕生日まで遡る。