第1章 おとぎのくにの
「息子はもう6人もいるんだもの。跡継ぎに困ることはないでしょう」
奥さまは楽しそうに笑っていますが、跡継ぎとかいう問題ではありません。
性別を詐称するということは、この赤ちゃんの一生に関わる問題です。
「奥さまっ!そんな恐ろしいことおやめくださいっ!」
「こんなに可愛いんですもの。きっと国一番の美人さんになるわ」
侍女長の必死な訴えも奥さまには届きません。
「旦那さまにも生まれたのは娘だとお伝えして。いつかいきなり教えてびっくりさせるんだから。それまでは私たちだけの秘密よ」
楽しそうに、けれどキッパリと言い切る奥さまに、それ以上誰も何も言うことは出来ませんでした。
どんなに無茶だと思っても、使用人である彼らは主である奥さまに逆らうことなど出来ないのです。
「······承知致しました」
侍女長の震える声にも気付かず、奥さまは生まれたばかりの赤ちゃんを愛おしそうに抱き締めました。
こうしてサトさまは女の子として育てられることになったのです。
サトさまは、侍女長の厳選した口が固く信頼出来る侍女数人と乳母に育てられました。
奥さまの期待通り、それはそれは可愛らしく育っていくサトさまの性別を疑うものは誰もおりません。
そんなサトさまの傍らにはいつも影のように寄り添う者がいました。
サトさまの乳母の息子のカズです。
サトさまより3歳年下のカズもまた、サトさま付きの侍女とするべく女として育てられておりました。
それは大きくなったとき、サトさまが自分の体に疑問を持たないように。
また、いつか事実を···
自分が男だと知った時に、同じ気持ちを共有出来る者を···という、侍女長たちの配慮からでした。