第1章 おとぎのくにの
小さいけれど豊かで平和な国。
この国一番の大貴族の屋敷にそれはそれは可愛いらしいお嬢様がいらっしゃいました。
名前はサトさま。
この国一番の美女だと謳われた母親譲りの美貌を持つサトさまは、屋敷の奥深くでまるで世間から隠すかのように育てられておりました。
7人兄妹の末っ子として生まれたサトさまは、唯一の娘であり妹であるため、父親からも兄たちからも溺愛されていました。
そのため巷では、サトさまが全く表に姿を見せないのは公爵さまが可愛すぎる娘を誰の目にも触れさせたくないためだろうと噂されていますが、それは半分は真実ですが、半分は違います。
実はサトさまには重大な秘密がありました。
国一番の美少女なのではないかと囁かれているサトさまは本当は男の子なのです。
それは十数年前の秋の終わりのある日のことでした。
サトさまのお母さまである奥さまは、出産を終えてすぐ生まれた赤ちゃんが男の子だと告げられ落ち込んでおられました。
すでに6人の息子がいる奥さまは、どうしても娘が欲しかったのです。
奥さまはしばらく生まれたばかりの赤ちゃんを見つめていましたが、突然にっこりと微笑むと
「この子は女の子よ!娘として育てるわ!」
そう宣言されました。
この時、この部屋にいたのは赤ちゃんをとりあげた医師と、お嫁に来る前から奥さまに付き従っている侍女長、それと赤ちゃんの乳母の3人。
奥さまの言葉に、その場にいた全員が青ざめ、息をのみました。