第13章 おとぎのくにの 5
そんなお利口さんにならなくていい。
無理して飲み込む必要なんてない。
カズだって、泣いて怒っていいんだよ。
それなのに、目にいっぱい涙を溜めてるのに、それでもカズは笑おうとする。
もう作り笑顔は見たくなくて。
これ以上無理してほしくなくて。
手を伸ばして、カズのほっぺたを思いっきり抓った。
「いっ…」
突然のことで訳が分からないだろうカズは、痛そうに眉をしかめて私の手をはずそうとするけど、離してあげない。
「痛い?」
「いひゃいです…」
痛くしてるんだから当たり前だ。
手加減なんてしてないから痛いに決まってる。
「泣いちゃうくらい痛いでしょ?泣いていいよ?」
「サトさま…」
カズは驚いたように目を丸くしたけど、私の意図はちゃんと伝わったみたいで。
その瞳にみるみる涙が盛り上がってきて。
「痛いです…サトさま…」
「うん…」
痛いよね、どこよりも胸が。
カズだって傷だらけなはずだもん。
カズの目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
我慢してた分、一度溢れたら止まらないみたいで、カズは身体を震わせながら涙を流し続ける。
「カズ」
「サトさまっ…」
静かに泣くカズを両手で抱き寄せると、カズは小さな子どもみたいにしがみついてきた。
さっきカズがしてくれたみたいに、今度は私がカズの背中をさすってあげる。
「………………ジュンさまっ…」
私の腕の中、カズが小さな小さな声でジュンの名前を呼んだ。
嗚咽に紛れてしまうくらい小さな声だったけど、私の耳にはしっかり届いた。
色んな感情が入り交じっているだろうその悲痛な声に、胸が締め付けられる。
大好きだった…
だから悲しい。
だから苦しい。
私の涙も止まらない。
気を利かせてくれているのか、応接間には誰も来なくて。
カズと2人、いつまでも泣き続けた。