第13章 おとぎのくにの 5
私たちを部屋まで送ってくれたお兄さまは、室内には入らず扉の前で足を止めた。
「お兄さま、ありがとうございました」
「ああ…」
お礼を伝えたけれど、お兄さまの返事はどこか上の空。
「お兄さま?」
不思議に思って呼び掛けてみたら、お兄さまは私をじっと見つめて。
「正直、俺もまだ混乱しているし…母上の話を信じきれずにいるが…」
言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
お兄さまの声がいつもより低いような気がして。
つい身構えてしまう。
だって私はまだ何も考えられてない。
さっきの話を全く受け止めきれてないんだ。
だから怖い…
お兄さまは一体何を言う気なんだろう…
顔も強ばってしまっていたのか、私を見たお兄さまは苦笑して、優しく頭を撫でてくれた。
「そんな顔をするな…大丈夫だよ、サト」
それだけで、肩の力が少し抜ける。
うん、大丈夫だ。
お兄さまは私を傷つけるようなことはしない。
そう信じられて。
お兄さまの目を見つめ返して小さく頷いたら、お兄さまはにっこり笑った。
「俺が言いたいのはね、もし本当にサトが男だったとしても、サトが俺の大切な家族で、大切な妹であることは変わらないよ…ってこと」
まっすぐに私を見つめる優しい瞳。
いつもと同じ愛情に溢れた言葉。
頭を撫でる温かくて大きな手のひら。
そのどこにも嘘はなかった。