第9章 おとぎのくにの 4
「お茶を飲み終わったら一緒に返事を書こうね」
「はい、サトさま」
いつの間にかサトさまには笑顔が戻っていて、それだけで私の気持ちもふわりと明るくなる。
「お茶のお礼と…急に会えなくなって寂しかったって文句を書いちゃおうかな」
「もう、サトさまったら…」
冗談めかして言ってるけど、サトさまなら本当に書きかねない。
ショウさまはそんなことで怒ったりはしないと思うけれど、侍女として止めるべきか好きなようにさせるべきか、ちょっと悩んでしまう。
「カズもジュンに文句を言ってやったら?」
そんな私の悩みなんて知らないサトさまは、のほほんとそんなことを言ってきて。
「そんなこと出来るわけないじゃないですか!」
思わず悲鳴みたいな声が出た。
「あはは!」
声を上げて笑うサトさまが楽しそうなのは良いけれど。
心臓に悪いからこんな冗談はやめてほしい。
「文句は冗談だけどね。会いたいって素直に書いたら、ジュンは喜ぶと思うよ」
「……サトさまもショウさまに会いたいって書かれるんですか?」
「書くよ?私は文句も書くけどね」
「ふふっ」
楽しそうなサトさまにつられて、つい私も笑ってしまった。
ジュンさまは図々しいってお怒りになるかもしれないけど。
サトさまの仰る通り、ほんの少しでも喜んでいただけるかもしれないなら。
サトさまが仰るからってサトさまのせいにして。
本当に書いてしまおうかな。
『私もお会いしたいです』
…って。
急にドキドキしてきたのを誤魔化すように口をつけた紅茶は、やっぱりとても美味しかった。
end