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innocence

第2章 きみがため


「見ろ。郷未のバグスターはその場から離れようとしていない。
誘い出すのはむしろ悪手だ」
飛彩が顎で指した先には、治療用のゲーム筐体に寝かされている郷未。突然起き上がり、目も覚めるような青い目を光らせていた。

しばらく互いに出方をうかがっていたが、バグスター側が攻撃を仕掛けてこないと見るや、飛彩は無防備なバグスターの肩をガシャコンソードで殴りつけた。峰打ちである。
「うっ……」
耐久力が低いのか、バグスターはすぐによろけて、壁に背中をぶつけて動かなくなった。

電子構成プログラムから立体映像として現れたバグスターと、生身の人間とでは、物理的衝撃を与えた際の感触が微妙に異なる。
この時飛彩が感じたのは、か弱い女性に暴力をふるってしまったような、嫌な肌の柔らかみ。そして、強い罪悪感だった。
吹っ飛んだ弾みで怪物の姿が解かれ、鍔広帽子を持ったバグスターの素顔があらわになる。

「そんな……何故だ、郷未!?」
「……っそれ以上近寄らないで!!」
郷未の顔をしたバグスターは、口から垂れた血を拭い、澄んだ瞳を大きく見開いて飛彩を制止した。
「なに?私が郷未と同じ顔してるから殴れなくなった?……バカじゃないの。百瀬小姫と郷未は全然違うじゃない。
あなたがくだらない罪滅ぼしを押し付けたせいで、あの子はどれだけ傷ついたと思う!?」
バグスターが吠えると、彼女の気持ちに呼応するように、心電図が警報音を鳴らした。
郷未の体は薄まるどころか、運び込まれた時よりはっきりと存在を主張していた。
「あなた達CRはバグスター憎しでやってるんでしょうけど、私を郷未を引き離したらどうなるか……試してみればいいわ」
執刀の手が鈍っている飛彩に向けて恨み言を吐き、バグスターは露のごとく消えていった。
____すると、郷未の整った容貌が苦痛に歪み始めた。
急激な血圧低下と不整脈、呼吸不全で経過を見守っていた医師達は対応に追われる。
飛彩も敵が消えた今、ガシャットを抜いて変身を解くしかなかった。
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