第7章 『混濁』
「花、なんかした?」
「してないんじゃん?」
拗ねてるような、声のトーン。
怒ってるの?
からかわれてる?
しーちゃんみたいに頭良くないから、しーちゃんの考えてることなんてわかんないよ。
「花はもー少し、危機感もった方がいいよ」
「危機感?」
「そう」
「なんで?」
「お前さ、男にへらへら愛想ふりまいてんじゃねーよ」
「ふりまいてないよ?」
「………………もー、いい。俺、花の彼氏にはなれない気がする」
「ふったの、しーちゃんだよ?」
「そういうことじゃなくて」
わざとらしく大きなため息をつくしーちゃんに、頭の中疑問だらけ。
だから、言葉足らないんだよね。
みんな。
勝手に納得しちゃって、説明してくれないんだもん。
それとも。
花が足らないのかな。
ブー ブー ブー
静かになった車内に、はっきりと聞こえる振動音。
一瞬、空気が凍りついた。
「………………でないの?」
真っ暗闇に、眩しいくらいに光る灯り。
ケータイホルダーにかけてある携帯の光が、運転席の窓に反射して、存在を主張してるよう。
「出ていいよ?」
「…………大丈夫。たいした用じゃないから」
にしては、けっこうしぶとくなってるバイブ音。
暫く震えたあと、静かになった携帯は、暴れだすことはしないのに、静かに、光だけでその存在感だけをうつしだしてる。
「……………よかった、の?」
もう、10時になる。
こんな遅くまで旦那が帰って来なかったら、普通心配、するよね。
「………」
「しーちゃん」
「花のが大事」
「………いつ、産まれる、の?」
「………」
「…………」
沈黙。
ああ、やっぱり、聞くんじゃなかった。言うんじゃなかった。
「……本気でそれ、聞きたいの?」