第3章 砂のお城
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「しーちゃん、しーちゃん、見て、三日月」
「んー?」
「こんな明るい時から出てるよ?」
「あー、夕方出て夜には消えるんだよ」
「へぇ」
「…………何してんの?」
「届くかなぁー、って、手伸ばしてた」
「お前たまに、いや、いつもか、変なやつだよな」
「なんで?三日月ってさ、このあとどんどん満月になるために満ちてくんでしょ?なんかいいよね。月ってさ、恋愛みたいじゃない?幸せのバロメーターみたい。満月になったら、あとは欠けるだけ、みたいな。だから、三日月はこれからたくさんの幸せを満たすんだよ?お裾分けしてもらいたいなぁ」
「………………」
「あ、違うからね?今幸せじゃないないなんて言ってないよ?しーちゃんに彼女いても、しーちゃんの隣に入れたら花、幸せだもん」
「…………たまにさ、花ってすごいことゆーよな」
「そう?」
「月が欠けたらまたはじめから満たせばいーだろ?月みたいな不確かなものに例える恋愛も、俺たちらしくていいな」
「あはは、確かに」
「………………」
何度目だろう。
昔の夢で目覚めるの。
昨日のことみたいに、鮮明に思い出せるのに。
思い出の中でさえ。
夢の中でさえ。
自分自身に嫉妬する。
「花のそれは、愛でも恋でもなんでもないよ」
いつまでもいつまでも悲劇のヒロインよろしく、親友ぶっちゃってる花に、目の前の美人さんがとうとうキレた。
しーちゃんと別れて、丸1ヶ月。
澪にしてみたら30日もよく耐えた気もするけど。
まぁ、なんにせよ。
休みの日にいきなり訪ねて来て、第一声が、先ほどのお言葉である。
「花のはね、依存、てゆーんだよ」
去年まではすでに夏休みだった学生と違って。
社会に出れば長期休みなんてもちろんなくて。
たまたま友達と休みが合うなんてことも滅多にない。
「夜勤明けにそれ、いいに来たの?」
「そうだよ!」
「そう、ありがとう」
「花」