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エメラルドグリーンに溶けて

第2章 変化


あれから一週間。
クラウスさんの目の前で倒れ能力がバレてから、彼が私の店を訪れることはなかった。
まあもともと常連客とはいえ毎日来られる方が少しおかしかったし、普通のことである筈なんだけど。

彼は私のした行為を不快に思わないと言ってくれたけど、冷静に考えてみると気持ち悪く感じたから店に来なくなったとか。
そんなの当然だと思うのに、なんだかもやがかかったような気分がする。

まるで寂しいような――、いやいやいや、そんなことない!
脳裏をかける考えを振り切るように頭を横に振りもやを振り飛ばす。


「し、仕事しよう仕事!!」


邪念を払う為には何かに集中するしかない。
今日は納品の予定だけだし、ついでに近くの市場で珍しい植物でも買い付けに行こうかな。

身支度を整え、商品を袋に入れ持つと店を出る。
すると、外に踏み出してすぐに壁にぶつかった。


「…ん?」


…壁にぶつかった?扉をあけたよね今。
外につながっているはずなのに、それを遮るように立つ黒い壁。
それは上質そうな布をまとっていて、暖かい。


「すまない、大丈夫だろうか」


壁から声が聞こえてきた。
降りかかる声に上を見上げると、そこにはクラウスさん。
思っていなかった人物の登場にびっくりする。


「…え?クラウスさん?」

「む、今から外出の予定があったのかね?」

「あ、はい。納品に行こうと」

「それ以外にしなければならないことは?」

「今日は特にありませんが…」


赤毛の紳士は私の手に持つ荷物を見つけて言った。
クラウスさんは一瞬悩んだ顔をした後、ぱっと顔を輝かせる。
その顔に何かまずいものを感じ後ずさるが少し遅かった。


「ギルベルトの車で納品先まで送ろう。その後少し時間をいただけないだろうか」

「えっ、ちょ、クラウスさん!?」

「きたまえ」


彼は私の手から荷物をするりと抜き取ると私の手を引いて歩き出した。
突然のことに抵抗をしたが手を振りほどけることはなく、私はクラウスさんに連れられるがままにギルベルトさんの車に乗せられたのであった。

エメラルドグリーンの瞳の男は時々強引なところがある。
車が走り出したのと同時に小さくため息をついた。







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