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エメラルドグリーンに溶けて

第1章 馴れ初め


ある平凡な昼下がり、気持ちのよい日差しをあびながら私は店先の植物たちの手入れをしていた。

私の名前はハヅキ・ヨシカワ、ここヘルサレムズ・ロットで観葉植物をメインに取り扱う園芸店の店主である。


「ふぅ、これでよし………、そろそろかな」


植物たちの手入れも一段落し、一息つく。
ちらりと腕時計で時間の確認をし、ため息混じりに一言。

このヘルサレムズ・ロットにきてから半年、少しずつ固定客もつかめ営業が順風になりつつある時に、私は1つ厄介なことに巻き込まれている。

巻き込まれている、という表現が正しいのか、正しくないのか。

喧騒溢れるこの街でひっそりと暮らしていた私の日常がある男によって少し狂いはじめてきたのだ。

その男がたぶんもうすぐ………


「こんにちは、ミス・ハヅキ」

「……こんちには、ミスタ・ラインヘルツ。今日もご来店ありがとうございます」


やっぱり今日も来た。
私の日常を狂わせはじめた男……、クラウス・V・ラインヘルツが赤い薔薇の花束を手に抱え声をかけてきた。

私の背を遥かに越える大きな身体、背だけでなく鍛えられたその肉付きはベストを羽織ろうと隠れてはいない。

クラウス・V・ラインヘルツこと彼は、最近私の店に毎日訪れているのである。


「ミスタ・ラインヘルツ、本日はいかがなさいましたか?」

「最近の気候の乱れのせいか、植物たちが少し元気がないのだが、どうしたら良いだろうか」

「それでしたらーーー」


彼は園芸の趣味を持っているらしく、度々観葉植物をご購入されたり、植物の状態について尋ねに来られる。
たまに私に聞かなくてもご存知なのでは?と思うことはあったりするが(ミスタ・ラインヘルツは園芸の知識が奥深い)、あくまでお得意のお客さま、私の持てる知識で質問に答える。

彼は私の回答にふむ、と納得するとありがとうと一言呟いた。

私はにこりとその言葉に微笑み返す。
商売人として当然のことです。


「ところでミス・ハヅキ、私と食事に行っていただけないだろうか」

「すみません、何度も申し上げておりますが、今回もご遠慮させていただきます」

薔薇の花束と同じ赤い髪をした男、クラウス・V・ラインヘルツはエメラルドの瞳を輝かせながら私を見つめるが、私はいつものごとくきっぱりと断るのであった。
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