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初恋の終わる日まで

第1章 復讐者、運命の乙女と出会う


誰もいない保健室に、彼女を運ぶ。ベッドの上、つらそうに汗を零しながら震える彼女に、俺は謝罪も出来ずに手当てする。彼女の苦しみは紛いも無く、俺の「個性」を「摂取」したが為だ。
丸めた背中を湿布で冷やす。腹部も同じように痛みが走っているだろうが、女の子の腹部を急激に冷やすのは体に良くないだろうとも思い、大判のタオルをかけて様子を見る。十分後、ようやく女の子が目を覚ました。
「んん……痛い……?」
目を覚ました彼女が、熱に浮かされたようなぼんやりとした瞳で俺を見る。俺は何と説明するべきか迷い、けれどもまずは頭を下げた。きょとん、と、目を丸くする彼女に、俺は頭を下げたままに真実を告げた。
「ごめんなさい。俺の所為で、君は倒れたんだ。俺の血の所為……個性である『血壊』の所為で」

血壊。自身の血を摂取した物に自身の痛覚記憶を植え付けるという、悪用する他に使い道のないゴミのようなそれが俺の個性だ。約50mlでその日一時間分と等倍の痛みを与え、そこから量を増やすごとに痛みは強くなる。痛覚の記憶のみを与える為、実際の臓器などには何ら問題は出ないが、それでも殴られたり蹴られたりが日常の俺が使えば、量によって相手の精神に重大なダメージを与えることが出来る。俺を嬲り者にしていた猿共への制裁には丁度良いが……俺の底辺人生に何の関わりもない、罪もない女の子へ危害を与えてしまうなんて最低だ。
「っ……こんな酷いことをしたんだ。俺を警察に」
突き出してくれ、と言おうとした刹那、被害者である女の子は俺の手を握った。細くて柔らかい指は、非力な俺ですら壊せてしまいそうな形をしている。桜色の爪が、俺の手の甲を優しくくすぐる。
「正直なのは良いことです。それに、気絶してしまった私のこと、ベッドまで運んでくれたんですね」
良い子、良い子、優しい子。加害者である俺にそう言って、彼女は手の甲をあやすように叩く。驚愕を前に喉から吐き出されたのは、彼女への懇願だ。
「俺は、伊丹愛別って言うんだ。……君の名前は?」
問い掛けた言葉に、彼女は無邪気な笑顔を浮かべた。大きめな八重歯が、とても愛らしく思えた。
「渡我被身子です。愛別ちゃん、私、あなたのこと、好きです」
人生で初めての「同性」からの告白。聖母のように微笑む目の前の女の子に、俺は一目惚れから一歩遅れた恋をした。血腥く、生温かい初恋を。
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